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新潟地方裁判所 昭和59年(わ)14号 決定

被告人 S・D(昭三九・五・一四生)

主文

本件を新潟家庭裁判所に移送する。

理由

一  本件公訴事実は、

「被告人は、

第一  Aと共謀の上、

一 昭和五八年一〇月二九日午前零時半ころ、新潟県西蒲原郡○町大字○○○×××番地×○○○海水浴場駐車場において、B(当時二四歳)、C(当時二三歳)に対し、同人らの顔面を平手で数回殴打し、脚部を数回足蹴にするなどの暴行を加え、

二  右Bらと同行していたD子(当時一五歳)、E子(当時一七歳)を強姦しようと企て、同日前一時ころ、同町大字○○○字○○××番地の空地に連れ込み、同所に駐車させた車内において、同女らに対し、「この落とし前をどうつける。俺は横浜のやくざだ。横浜に連れて行くぞ。」などと脅迫してその反抗を抑圧した上、そのころ同所において、Aが右D子を、被告人が右E子、D子の両名をそれぞれ強いて姦淫し、

三  右B及びCが前記暴行等により畏怖しているのに乗じ、同人らから金員を喝取しようと企て、右同日午前三時ころ、右第一の二記載の場所において、Aが被告人に「金をとれ。」と命じた上、被告人が同人らに手を差し出して金員の交付を要求し、同人らが右要求に応じなければ更に同人らの身体等にいかなる危害を加えるかも知れない気勢を示して脅迫し、同人らをしてその旨畏怖させ、よつて即時同所において、Cから現金約二万円の交付を受けてこれを喝取し、

第二 F、G、H、Aと共謀の上、I(当時一八歳)他四名の男子高校生と同行していたJ子(当時一七歳)、K子(当時一八歳)、L子(当時一八歳)、M子(当時一七歳)、N子(当時一七歳)らに因縁をつけ、同年一一月二日午前二時ころ、右J子らを同郡○○村大字○○○字○○×××番地先の林道に連れ込み、右J子ら五名を強姦しようと企て、同所において、同女らに対し、右Aにおいて、「俺は横浜のやくざだ。落とし前をつけろ。お前達を殺して埋めることもできる。体で落とし前をつけろ。」などと脅迫してその反抗を抑圧した上、そのころ同所に駐車させた普通乗用自動車三台の車内において、AがK子を、HがJ子を、被告人がL子を、FがM子を、GがN子をそれぞれ強いて姦淫し、

第三 Aと共謀の上、同月一九日午前零時三〇分ころ、同郡○町大字○○○字○○×××番地×付近において、普通乗用自動車に乗つて通行中のO(当時二〇歳)及びP子(当時一九歳)に因縁をつけ、右Oから金員を喝取しようと企て、そのころから同日午前四時三〇分ころまでの間、右両名をA運転の普通乗用自動車に乗車させるなどして同町大字○○○字○○×××番地付近の○○山中の林道上などにおいて、右Oに対し、「仲間のところに行かなければならないのに遅れてしまつた。この落とし前をどうしてくれるんだ。落とし前として五〇万円出せ。警察に言つてもいいが、そうすれば若い者がお前らの家をめちやめちやにしてやる。金は今日の一二時までに新潟駅前のヨツトハーバーに持つて来い。お前の車検証は預かる。金と引換えに返してやる。」などと申し向けて金員の交付を要求し、もしこの要求に応じなければ同人及びP子の身体等にいかなる危害を加えるかも知れない気勢を示して脅迫し、右Oをしてその旨畏怖させて金員を喝取しようとしたが、その後同人らが警察に届け出たため、その目的を遂げず、

第四 前記P子が、前記山中に連れ込まれた上、前記脅迫等されたことにより、極度に畏怖し、抗拒不能になつていることに乗じ、同女を強姦しようと企て、同日午前二時三〇分ころ、前記林道上に駐車させた車内において、A、被告人の順に強いて同女を姦淫し

たものである。」

というのであつて、以上の各事実は、当公判廷で取り調べた関係各証拠により、すべてこれを認定することができる。

二  そこで、以下、被告人の処遇について検討するに、関係各証拠によると、次の事実を認めることができる。

1  まず、本件に至る経緯を見るに、被告人は中学卒業後工業高校に進学し、その成績も上位にあつたものの、父母の折合いが悪く、二年生となつた昭和五六年秋ころ、母親が家を出て別居するという家庭情況にあつて精神的に不安定な状態に陥り、勉学の意欲もなくして登校しなくなり、同年末高校を退学し、父親の大工仕事を手伝うなどしていた。しかし、昭和五七年三月下旬ころ、父親が急死したことにより、頼りになるべき者を失い、自殺をも考えるなど孤独で自暴自棄的な生活を送つていたところ、同年六月ころ、たまたますぐ近くに住むA(当時三一歳)と知り合い、その一見頼もしい態度に引かれて、同人の家庭にも出入りするうちに、次第に同人やその家族との交際を深め身内以上の付き合いをするようになつていつた。ところが、Aにおいても、昭和五八年三月ころ職を失い、生活費に窮した末、パチンコの玉を当たり穴に誘導する磁石を客に高額で売り捌くといういかがわしい商売をすることを思いつき、車を持つていた被告人を仲間に引き入れ、二人で適当な客を探すために連日のように深夜国道を走り回つていたが、やがて行動の時間帯を同じくする暴走族グループの不良少年らと顔見知りとなり、これらの者と行動をともにするうち、本件各犯行を犯すに至つたものである。

なお、本件の共犯者のうち、第二に記載してあるF(当時一九歳)、G(当時一九歳)及びH(当時一七歳)が、右暴走族グループに属する少年であり、いずれも同グループ内において主導的立場にあつた者である。

2  本件の内容は、前記認定のとおり、強姦事件三件(被告人が姦淫した被害者四名)、恐喝、同未遂事件各一件(喝取金額二万円)及び暴行事件一件で、誠に重大、悪質な事犯であるが、各犯行はそれ自体をとりあげてみると、いずれもある程度偶発的な事情によつて発生したと見る余地もあり、少なくとも、共犯者の間で事前に計画が練られていたというものではないし、また、事件発生の経緯をみてみるのに、これが本件各犯行にまで発展した原因については、被害者の側にも深夜遊び歩くといういささか軽率な行動があつたようにうかがわれるほか、被告人らとの対応の仕方につけ入られる隙がなかつたとは言い切れない事情も存するのである。そして、いずれの犯行においても、成人共犯者Aの地位・役割は単なる首謀者・主導者の域をこえて被告人らに対し、絶大な影響力を及ぼしていたとみるべきであつて、Aがその一存で率先開始した犯行に、被告人あるいは暴走族グループの少年らが事の成り行きにまかせて付和雷同的に加担したとみるべき事案である。しかも、被告人は、前記のように不遇な家庭環境にあつたことや、Aのすぐ近くに居住し、身内以上の付き合いをしていたところから、他の共犯少年らと比較してAの支配下から離脱することが一層困難な情況の下で、ほとんど同人の意のままにその手足となり全く追従的に行動した形跡が随所に見られるのである。

3  そして、被告人の性格については、少年鑑別所の技官及び家庭裁判所調査官などの専門家から、前記の不遇な家庭環境を背景とする偏りが見られ、とかく孤立しがちで、依頼心も強く甚だ自己中心的であるとしてその未熟さを強く指摘されているところであるが、これは当公判廷における被告人の言動に照らしても十分首肯しうるものであつて、被告人は現在では二か月足らず後に成人を迎えるという年令に達している(犯行時一九歳五か月ないし六か月)割には幼くて、可塑性もいまだ失つていないものと認められる。更に、被告人の犯行前の生活、行動歴を子細に検討してみると、いささか情況に流される傾向がみられるとともに積極的に自己の生活を整えようとする意欲に欠ける嫌いはあるものの、自暴自棄に陥りながらも被告人単独で重大犯罪に及ぶというようなところは全くみられず、これまでの非行歴も母親が別居をする前後の精神的に不安定な時期における二回のシンナー吸引と父親死亡後の孤独な環境下でたまたま犯した一回のシンナー吸引のみであり、これらの事件は、いずれも家庭裁判所において不処分で終わつている。すなわち、被告人は、これまで少年院はもとより、少年鑑別所への収容体験もないまま、成人共犯者Aの行動に引きずられて、僅か三週間という短期間のうちに集中的に本件各犯行を犯したというものであつてみれば、既に指摘した諸事情にかんがみ、その非行性が必ずしも顕著であると断ずることはできないのであつて、前記専門家らの被告人に対する処遇意見が、それぞれ中等少年院送致(鑑別所技官)及び特別少年院送致(家庭裁判所調査官)を相当としている点は、専門家の判断として十分に尊重されるべきである。

4  ところで、犯行後における被告人の情状についてみると、被告人は、身柄を拘束されて、その日数も既に一二〇日ほどに達しているうえ、当裁判所の公判廷において四回にわたる事実審理を受けたことによつてその内省も相当深まり、現在では、ことの重大性を十分認識して、本件当時のものの考え方や軽率な行動について真しに反省し、母親のもとで更生に努める気持を有していることが認められる。加えて、公判継続中に被告人の母親及び伯父において強姦事件の被害者四名のもとを訪れて謝罪したうえ、各被害者に対し慰藉料等の内金として金一〇万円を提供してその被害感情の宥和に努め、また、恐喝事件の被害者に対しては被害金額金二万円を送金して弁償するなど他の共犯者には全く認められない有利な事情が存在することを見過ごすことができない。

5  また、本件については、既に被告人を除く全員に対する処分が一応終了している。主犯のAについては、本件以外の余罪があるものの、これらの罪質及び犯行態様の悪質重大さ、前記のような地位・役割、被害弁償はもとより慰藉の方法すら何ら講じようとしないことなどの諸情状により懲役七年(求刑懲役八年)の実刑判決が言い渡され、その他の共犯少年たちについても家庭裁判所において、特別少年院送致(G及びF)あるいは保護観察に付する(H)旨の決定がなされていることが認められる。主犯のAらに対して右の各処分がなされた現在、被害者及び社会一般の正義感情との関係においても、被告人に刑事処罰を求める理由は、相対的に弱まつたものとみて差し支えなく、他方、暴走族グループに属する共犯少年らの最終処分などと対比すると、被告人に対して刑事罰(求刑懲役四年以上六年以下)をもつて臨むのは、これらの少年らとの間で著しい処遇の不均衡を生ぜしめる結果となるため容認しがたい。

三  したがつて、本件各犯行の罪質、規模、態様等からみれば、新潟家庭裁判所が被告人を刑事処分相当として検察官に送致した措置は、当時の情況下においてはやむを得ないものがあつたということができるが、本件各犯行の経緯、被告人が本件に占めた地位・役割、被告人の性格、非行歴、鑑別所技官、家庭裁判所調査官の各意見、各被害者に対する慰藉の努力、被告人の現在の心境、主犯のAに対して既になされた処分の内容及び共犯少年らとの処分の権衡などを総合して考慮すると、現時点における被告人については、いまだ保護処分による矯正の可能性がないとはいえず、また、被告人を保護処分に付することが社会一般の正義感情にもとるものともいえないから、成人を間近に控える被告人に対し、少年としては最後ともいえるこの機会に、専門的な機関による矯正教育を施し、その更生を期待することが相当であると思料する。

よつて、少年法五五条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 宮嶋英世 裁判官 田中康郎 若原正樹)

〔参照〕 受移送審(新潟家昭五九(少)五四九号 昭五九・三・三〇決定)

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

(非行事実)

(編略)

((法令の適用)

(編略)

(処遇の理由)

1 本件は、判示認定のとおり、少年が他の共犯者とともに、三回にわたり、いずれも深夜車でドライブ中の若い被害者に因縁をつけ、人里離れた山の中などに連れ込み、八人の女性を強姦(輪姦でない判示第二の非行をも含め、いずれの非行もその態様はこの種事案の中でも稀に見るほど悪質である。また、被害者の中にはこれまで全く性体験のない年若い女子高校生や将来結婚することを前提にまじめに交際していた者も含まれている上、性病まで感染させられ現に通院治療中の者も認められ、同女らの受けた心の痛手は計り知れないものがある。)したほか、同行の男性に対し暴行、恐喝又は恐喝未遂を働いたというものである。

本件は、当時少年が兄のように慕つていた年長者A(当時三十二歳)が専ら計画し、その指示のもとに実行されたもので、少年は他の共犯少年とともにこれに随伴したものである。

しかし、少年は、このうちいずれの非行にも加担し、自ら四人の女性を姦淫していること、最初の非行時はとも角、その後の各非行時にはAの意図を早くから十分に察知し、これを助けるべく、Aの仲間としてその場に立会い又は車を運転するなど、陰に陽に行動していること、このような協力なしにAが単独ではとうてい本件のような非行を遂行し得なかつたと認められること、少年は年齢に比して人格の発達が未熟であるとはいえ、本件各非行時すでに十九歳半ばの年長少年であつたことなどを併せ考えると、本件の主謀者は正しくAであるとはいえ、少年の本件各非行に果たした役割及びその責任は必ずしも軽いとは言えず、このような悪質な本件の各非行にいずれも加担している点において、他に余罪はあるにしても本件各犯行には単に一回加担したに過ぎない他の共犯少年に比べ、格段にその責任は重いものがあると認められる。

二 当裁判所が、さきに本件の共犯少年中保護処分歴のない本件少年に対し、あえて刑事処分相当として本件を検察官に送致する措置をしたのは、前記のような本件の罪質及び情状に照らし、少年については、保護処分による矯正教育の可能性は認められるものの、むしろ刑事責任を問い、その罪責を明らかにするのが相当であると考えたからにほかならないと解される。

三 ところが、このたびの地方裁判所の決定によると、その後における同裁判所の審理において、少年側が積極的に被害者に対する慰謝に努め、他の共犯者には全く認められない有利な事情が存在するに至つたことなど、その後に生じた事情をも勘案し、少年を保護処分に付することが社会一般の正義感情にもとるものではなく、少年に矯正教育を受ける最後の機会を与えるのが相当であるとして、少年法五五条により本件を当裁判所に移送してきたものであることが認められる。

なお、少年は地方裁判所の公判審理を通じ自己の犯責を一応は自覚しているものの、いまだに処分の定まらない不安定な自己の立場に強い不安感を抱き、このまま保護手続の枠内で処遇されることを切望しているものと認められる。

四 以上のような本件の経緯に鑑みると、現段階においては、少年に対しなるべく速やかに適切な矯正教育を施し、少年の健全な育成を図るのが相当であると言えよう。

よつて少年の要保護性とこれに対する処遇方法について検討するに、本件非行を通して認められる少年の非行への親和性に加え、鑑別の結果からも明らかな少年の性格上の負因、高校中退後における少年の不安定な生活態度、唯一の保護者ともいうべき実母の保護能力の欠如及び同女に対する少年の疎外感などを総合すると、少年に対してはもはや在宅保護の余地はなく、少年院に収容し、長期間にわたり組織的な矯正教育を加え、基本的な生活訓練を修得させるのが相当であると考える。

よつて少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用し、主文のとおり決定する。

裁判官 栗原平八郎

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